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龍使いのキアス/浜 たかや/偕成社
ロールの世界を支配するアギオン帝国は、三百年もの間、初代皇帝アグシャトルの夢の呪縛に苦しめられていた。モールの巫女達の力は失われ、ロールの世界は、そのいたるところで、歪が生じている。
モールの神殿に仕える巫女見習いの少女キアスは、正式な巫女になるための「呼びだしの儀式」に失敗してしまった。儀式に失敗した巫女見習は神殿を出て行かなければならないが、元々、捨て子だったキアスには帰るべき家が無い。キアスは巫女達の失われた力を取り戻すために、三百年前から行方を絶っている、龍を操ったという伝説の偉大な巫女マシアンの行方を捜す旅に出ることになる。
自らの出生の顛末を知らないキアスのマシアンを求める旅は、とりもなおさず自分探しの旅でもあるが、この旅を通じて、様々な人と出会い、困難にぶつかりながらキアスは成長していく。キアスの真正面から人と向き合う、そのひたむきな姿に読者は共感を憶え、自分自身の姿を重ね合わせていくことだろう。ヒロインとしてのキアスの像は、「風の谷のナウシカ」などに代表されるジブリ作品での主人公たちと重なるところも大きい。ある種、普遍的でありながら、優れて魅力的だ。
作品全体のトーンがポジティヴで、決して暗くないのは、ロールという壮大な神話的世界で、キアスと彼女を取り巻く若者たちが自らの運命を切り開いていく姿が活き活きと描かれているからだろう。同じ作者の、古代中央アジアを舞台にした「太陽の牙」シリーズ七部作の登場人物が、抗いながらも運命に操られがちなのと比べると、対照的で違いが際立っている。
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