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月の石/トールモー・ハウゲン/WAVE出版
主人公のニコライ・スヴァルドは、ノルウェーの首都オスロに住む12歳の少年。両親とともに、一見、何不自由ない幸せな生活を送っているように見えながら、その家庭は崩壊の一歩手前にあった。
父親は密輸に手を染めることで私腹を肥やすことに夢中になり、母親は秘密の口座に夫の金を秘匿し家族の前から蒸発してやろうと企てを進めている。
そんなぬくもりのない家庭で暮らすニコライに不思議な声が呼びかける。
「月の光が失われようとしている。力を貸して、ニコライ」と。
「月の石」という不思議な宝石をめぐる事件に巻き込まれた家族が、それぞれの視点で家族の関係を見つめなおすという本書の意図するところはわかる。しかし、読後の感想は、どうもすっきりしないのである。
ファンタジイの醍醐味は、まずは現実と幻想が拮抗し、いつしか幻想が現実を凌駕し、ついには現実という冷厳な事実をさえ、永遠と泡沫という名のもとに、その姿をあるべき姿に正すというところにあると僕は思うのである。とりわけ、異世界と現実との対比で描いていく、この種の作品では重要なポイントだ。
この作品は現実の描写に重きを置くあまり、異世界のヴィジョンの描写が甘い。イメージを喚起するシーンは物語のあちこちに配置されているが、それらを貫くテーマが希薄なのである。
結末に向けて登場人物たちがひとつの場所へと、皆が集まるというのも下手な舞台劇のようで、あまり好きにはなれない。結末もいかにも中途半端だ。
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