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肩胛骨は翼のなごり
肩胛骨は翼のなごり 肩胛骨は翼のなごり/デイヴィッド・アーモンド

 マイケルはサッカーが得意な10歳の少年。家族とともにファルコナー・ロードと呼ばれる一画の中古住宅に引っ越してきた。
 その家は、あちらこちらに手を入れる必要があったが、家族の目下の大きな心配は生まれたばかりの赤ん坊、つまりマイケルの妹が心臓病で具合が悪いことだった。
 そんなとき、マイケルは庭の古びたガレージの茶箱のうしろの暗い陰に、何か動くものを見つけた。黒いスーツを着て、青蝿の死骸にまみれ、蜘蛛の巣だらけの生き物。彼は汚れて衰弱し、今にも死にそうに見えた。彼は自分の名前をスケリグと言った。驚くべきことに、彼の背中には大きな羽が生えていた。マイケルはスケリグの望む食事を運び世話をする。
 マイケルは新しく友達になった隣家の少女ミナにスケリグのことを打ち明ける。ミナは学校に行かず、家で本を読んだり絵を描いたりして暮らす不思議な少女。ミナの家庭はお仕着せの学校教育は子どものためにならないとして、学校に行かせない主義なのである。
 二人はスケリグの命を助けようと世話を続ける。そんな二人にスケリグも心を開いてゆく。やがて身体も癒えたスケリグは、マイケルたちの前から姿を消す。

 透明感溢れる文体、繊細な描写、あたかも夢と現実が交差しているような美しいストーリーに魅入られました。。
 少年の目を通して描かれた霞のように幻想的な物語の中で煌めいているのは、弱きもの、小さきものへのいたわり、慈しみ、家族の絆、友情です。
 主な登場人物がそれぞれに魅力的なのも素敵です。
 特に、木登りが得意で、鳥に詳しく、絵が上手という、隣家の少女ミナ。ありきたりな常識にとらわれない個性的な彼女のおかげで、マイケルはずいぶん助けられているような気がします。なんとミナは、ウィリアム・ブレイク(イギリスの幻想詩人にして画家)の詩を暗唱するんですよ! このことでもいかに彼女が個性的であることがわかりますね。
 最後までスケリグの正体は明かされることはありませんが、やはり彼は天使だったのでしょうか。
 青蝿を食べたり小動物を丸呑みにしたりする彼ですが、汚れにまみれ病み衰えた姿は、信仰心や人を思いやる気持ちを失った現代人の内面を体現しているのではないでしょうか。そんなスケリグが、マイケルやミナの助け得て、心を開き癒されていく。とても大切なことを象徴していると思います。

 この作品は、1998年に、カーネギー賞とウィットブレッド賞の児童文学部門賞をダブル受賞しています。英国では年間200を超える文学賞がさまざまなジャンルの作品に与えられていますが、その中で、カーネギー賞は、英国で出版された児童書の中でもっとも優れたものに贈られる賞であり、ウィットブレッド賞は英国籍の作家を対象として贈られる権威ある賞です。1998年と言えば、あの「ハリー・ポッター」の第一作「ハリー・ポッターと賢者の石」が刊行された年なので、「肩胛骨は翼のなごり」は一大ブームを巻き起こした「ハリーポッター」を抑えて受賞した作品というわけです。本作を読んで、それがまさしく当然のことであるということが納得できます。
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