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勇者の剣 勇者の剣 勇者の剣(レッドウォール伝説 @)/ブライアン・ジェイクス/徳間書店

 レッドウォール修道院では、ネズミたちが、いにしえから伝わる、勇者マーティンの肖像が描かれたタペストリーを心のよりどころとしながら、祈りと癒しの者として平和に暮らしていた。
 しかし、「バラが遅れて咲いた夏」と名づけられた年のこと、血なまぐさいうわさにまみれた凶悪なドブネズミ「鞭のクルーニー」がレッドウォールを襲撃してきたのだ。平和を愛する修道士ネズミたちと森の生きものたちではあったが、悪にひれふすわけにはいかないと、敢然と立ち向かう。 しかし、凶悪なドブネズミ軍団の前に、一人また一人と倒されていく仲間たち。
 そんな中、勇者マーティンに強くあこがれる若い修道士ネズミのマサイアスは、かつて修道院を禍から救ったというマーティンの持つ伝説の剣「勇者の剣」を求めて危険な旅に出た・・・。
 
 全編、擬人化された動物が主人公の児童文学ファンタジイである。ファンタジイといっても、動物が主人公ということもあって、神秘性や幻想性といったものはほとんど感じられない。
 児童書としては分厚い方で、かなりの分量があるのだが、場面展開がとても上手いので、ぐいぐいとストーリーに引き込まれていく感じで、難なく読めてしまう。あとがきによると、元々、盲学校での読み聞かせのために作られた物語なのだそうで、同時進行で短いエピソードが平行して語られていくという、読み手を飽かさせない構成は、その顕れかもしれない。

 登場するキャラクターも個性的でな面々が揃っていて、とても楽しい。
 特に傑作なのが、キックボクシングの名手にして退役将校である〔牡鹿バージル〕。〔牡鹿〕といっても、本当は鹿ではなくてノウサギなのだが、彼自身の言葉を引用すると、
「えーっと、つまり、ウサギというのは苗字でね。バージルは両親がつけてくれた名前なんだけど、・・・(後略)」「牡鹿か。美しい生きものだよな。一度でいいから、鹿になってみたい、と前々から思っていてね。・・・(中略)・・・だから、ある夜、いつも行く川に入って、自分で自分に名前をつける儀式をしたわけさな!ヒキガエル二匹とイモリを立会人に任命したんだ。いや、ほんと」――つまり、牡鹿にあこがれて名前に〔牡鹿〕を付けたというわけである。
 そのほかにも、年代記記者の老ネズミメスーゼラ師や、土木工事の名人カシラモグラ、〔ゲトモ―トガリネズミゲリラ同盟―〕のリーダーである〔丸太の船頭〕スズメ語がとてもかわいらしいスズメの女王「鉄のくちばし」などなどが物語を盛り上げていく。

 ただひとつ難を言えば、登場するキャラクターが、どんどん命を落としていくこと。悪役はもちろん、味方でも、物語の進行の中で、死んでいくキャラクターのいかに多いことか。戦いの熾烈なのはわかるが、そのあたりに疑問を持つ読者も少なくないのではないかと思う。

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