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これは王国のかぎ
単行本
(ハードカバー)
理論社 版
これは王国のかぎ これは王国のかぎ/荻原規子/理論社


 上田ひろみは失恋して22日目の梅雨のさなかに15歳の誕生日を迎えた。同じクラスの男子生徒に恋をしたが、その彼を一番の親友にとられたのだ。
 ひろみは学校から帰ってきて自分の部屋で思いっきり泣いた。そして思った。「あたしはあたしでいることをやめたい」
 ひろみは泣き疲れて制服のまま眠ってしまった。目覚めると、そこはチグリスの畔。目の前には見知らぬ、縞模様のターバンをした青年。彼女は不思議な力を持つ魔神族(ジン)になっていた。
 青年の名ははハールーンといい、自分の手で自分の人生を切り開こうと、家を捨てて出てきたところだと言う。上田ひろみであることが嫌になっていた彼女は、魔神族(ジン)としてハルーンとともに世界へ運試しの旅に乗り出すことを決意する。
 ハールーンは彼女にジャニという新しい名をつけた。
 あとでわかるのだが、実はハールーンはこの国の第一王子であった。
 彼女は知らず知らずのうちに、王家の争いに巻き込まれていくのであった。

 アラビアンナイト、千夜一夜の世界を原典にしたファンタジイです。
 あとがきで著者は、「女の子のささやかな自己セラピーの話を書いてみようとした」と述べています。この「ささやかな」というのがミソですね。
 失恋の心の傷から自己嫌悪に陥った主人公のひろみは、アラビアンナイトの世界に入り込み、魔神族(ジン)として冒険を重ねます。そして最後には自分を取り戻し現実世界に帰ってきます。
 こうした物語の構造はエンデの「はてしない物語」に通ずるところがありますが、千夜一夜の世界というところがユニークです。
 主人公がアイデンティティを取り戻し、自己を回復する過程があっさりと簡単に書かれているので、その点はちょっと物足りないところです。そういうところが「ささやかな」という所以なのでしょう。

 王国はシェエラザード姫、かぎはひろみ自身。すべての出来事はシェエラザード姫が語る千夜一夜物語の中の出来事。そして物語の「外」に現実がある。ハールーンが飛び出していったという「外」。魔神族(ジン)ではない生身の上田ひろみが暮らす「外」。
 読み込むと様々な伏線や断片的なひっかかりがちりばめてあるのですが、著者はあえてそれらを重層的に紡いで表現するのではなく、受け入れられやすい軽めの読み物としての表現を心がけているようです。

 とても読みやすい本ので、短時間で一気に読めます。
 読後感がとても爽やかな物語でした。
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これは王国のかぎ
単行本
(ソフトカバー)
中央公論新社 版
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