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水の伝説/たつみや章/講談社
東京の小学六年生、光太郎は学校に適応できず、逃げ出すように山深い小さな村に山村留学する。
寄宿先の白水村の一ノ関家には同学年の龍雄という子がいて、友達にもなれた。光太郎にとって、東京での暮らしと打って変って、楽しい毎日であった。
ある日集中豪雨によって、龍雄の家が代々育ててきた山林が土砂に流されてしまった。光太郎は大雨で水かさの増した川で、龍神滝の下の乙女ケ淵で赤い盃を拾う。その夜、原因不明の高熱に襲われた光太郎の夢の中に、不思議なメッセージが届けられる。
古代の神話や伝説を現代に蘇らせることによって、現代日本の社会の危うさや脆さを、対比的に描き出すという作者の意図が鮮やかに実現した一作。人間と自然は対決するべきものではなく、共生するべきもの。いや、共生というよりも、本来人間も自然の一部であり、自然から切り離されては、もはや人間らしさなどありえないのである。
神楽の場面は何回読んでも胸が熱くなる。それに続く第十一章に込められた、明日への希望は、読む者すべてに爽やかな読後感を残す。
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