 |
蟹塚縁起/文:梨木香歩 絵:木内達朗/理論社
梨木香歩の絵本は、子供向けと言うより、大人を読者として想定されているのではないか。
この「蟹塚縁起」もやはりそういう一冊。
最初のページの絵を見て、その荒涼とした寂しさ、不気味さに、まず一歩引いてしまった。
1ページ目の文章は「真夜中。とうきちが眠っていますと、枕の下から、ざわざわ ざわざわ なにかきこえます。」で始まる。
なのに、私には、この絵はとうてい眠っているようには見えず、死んでいる人の亡きがらを描いたもののようにしか見えないのである。
それは、この作品の根底を流れているテーマの一つが「死」であることを考えると、その最初の印象はある意味正しいかもしれないし、作者の意図するところかもしれない。
情愛が人一倍強いがために、恨みにとらわれ、恨みを捨てられないという、とうきちの、いや七右衛門の業の深さ。命というものの儚さ、生きるということのあわれさ。
4枚目の絵。その前の2枚では輪郭がぼやけたような風景の絵が続き、いきなり蟹の大写しである。あたかも、蟹という実在が、突然目の前に現れ出でたというような感じ―と言って、わかってもらるだろうか。
これには実に驚かされた。
油絵であろうか、木内達朗の絵がたいへん印象的であった。
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