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影の王/スザンヌ・クーパー/偕成社
僕にとって、スーザン・クーパーといえば、「闇の戦い」シリーズの著者としての存在が大きい。ケルト的な世界観にもとづいたスケールの大きなこのシリーズは、傑作ファンタジイとして、今なおその輝きを失ってはいない。
そのクーパーの新作が出た。その名も「影の王」。とはいっても、これは「闇の戦い」とは全く関係がなく、十六世紀の英国へのタイムスリップを扱った作品だ。
主人公のナット・フィールドはアメリカの少年俳優。幼いうちに母親を亡くし、妻を心から愛していた父親も心痛から自らの命を絶った。一人残され、心に深い傷を負うナットはひたすら演劇に打ち込んでいる。
ナットはスカウトされ、少年劇団の一員としてロンドンへやって来た。再建されたグローブ座で、シェイクスピアの芝居を四百年前の当時と同じ形態で上演するためである。
しかし、ナットは公演の前にシェイクスピアの時代のグローブ座にタイムスリップしてしまい、シェイクスピアじきじきの指導のもとで、「真夏の夜の夢」の妖精パック役を演ずることになるのであった・・・。
四百年前のロンドンの有様とか、シェイクスピア劇の様子とか、歴史上実在の人物の素顔とかが生き生きと書き込まれ、作品に、大きな魅力を与えることに成功している。当時のロンドンの街の非衛生的なところなどは、なかなか物語で(特に児童文学では)語られることは少ないので、非常に興味深かった。当時の演劇の裏側や観客、劇場の雰囲気などの描写の鮮やかなことをみると、クーパーは相当のシェイクスピア演劇のファンなのだろうか。
シェイクスピアとの出会いによって、ナットの深い心の傷は徐々に癒されていくが、その別れはまた、新たな悲しみをもたらすものでもあった。しかし、クライマックスで、シェイクスピアがナットの存在をいかに大事に想っていたかを知ることで、ようやく真の癒しが彼の心にもたらされるのであった。
読み終わったあと、深い読後感の中に、切なさと感動がじわ〜っと、こみ上げてくるお奨めの一冊である。
また、謎を謎として残したまま、ペンを置く辺りに、この著者らしさを感じた。
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