単行本
原生林 版 |
エンジェル エンジェル エンジェル/梨木香歩/原生林
コウコは有名な進学校に通う高校生。両親との三人暮らしである。
成績優秀で優等生のコウコは親の前では「良い子」を演じてはいるが、実は一日に三十杯はゆうに飲むコーヒーに含まれるカフェインの過剰摂取によって情緒不安定に陥っている。というよりも、勉強疲れと、内面と外見のギャップを埋めるためにカフェインに頼ってしまったというべきか。
そんなコウコの家に伯父家族と同居していた祖母が預けられることになった。祖母と同居していた伯父がアメリカに転勤することになったためである。
トイレへ行く他はほとんど寝たきりの少し呆けた祖母、さわちゃん。現在のコウコの生活と、祖母の若い日の物語が一章ごとに交代で同時進行していく。
分量的に短時間で読めるが、不思議な印象を残す作品である。
情緒不安定を乗り越えるためには熱帯魚が必要と、コウコはエンゼルフィッシュとネオンテトラの飼育を始める。すると、息子や孫の顔もわからなくなっていたばあちゃんの様子が少しずつ変わってきた。ばあちゃんの記憶は少女時代に遡っているようである。少女時代のばあちゃん(さわちゃん)の忘れられた物語が蘇る。
ばあちゃんとの交流の中で、勉強と日々の暮らしに疲れたコウコの心は瑞々しさをとりもどしてゆく。
「神様が、そう言ってくれたら、どんなにいいだろう」
「私が、わるかったねえって。おまえたちを、こんなふうに創ってしまってって」
ばぁちゃん(さわちゃん)が少女時代に負った心の傷が、亡くなる前に、癒されたのだと信じたい。
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