
Fantasy Land の森

| ◆ そもそもファンタジイ文学って、なんでしょうか? |
| 妖精やドラゴンが出てくるお話のことでしょうか? |
| なるほど、ファンタジイ文学のにはそういった架空(?)の存在が登場する現実離れした奇想天外 |
| なお話が多いのは事実です。(……それはそれで、個人的には大好きですが……) |
| でも、ドラゴンが天空を飛び回れば、それでファンタジイというわけではありません。 |
| ここに一冊の本があります。「ファンタジーの発想―心で読む5つの物語(小原
信著/新潮選書)」 |
| です。ファンタジイ文学について書かれた、たいへん優れた本です。 |
| その中に、ファンタジイ文学がもたらすこころへの働きについて、述べたくだりがありますので、以下 |
| に引用します。 |
|
|
| (以下引用) |
| 「……『ファンタジーの発想』と題した本書において、私は以下にのべるような願いを少しでも実 |
| 現したいと心がけた。それは一見ささやかに 見えて、じつは大変欲ばった望みである。私はわ |
| れわれ一人ひとりがこれまで不当に見逃してきたファンタジーのよさに気づくことにより、いまま |
| で見ることのなかった新しいこころの世界がそれぞれの内側にひろがっていくことを願っている。 |
| 1 かつて自分が子どもであった頃にも、本当はもちあわせることのなかった人間の人間らし |
| さを、大人として自分が、こんどはじめてみつけ出すこと。それは新しい自分との新しい自分 |
| との新しい出会いを体験することであるが、それは他の何もののもまさる幸いであり、いの |
| ちを豊かにする試みなのだ。 |
| 2 大人としての自分が、これまで気づくことなくやりすごしてきたことがいったい何を意味して |
| いるのか。外的な変化があるわりに内的な成熟がともなわない自分の現実を自覚しながら、 |
| いままで失ってきたものが何だったのかを知って出直すこと。それは、これからの行き方を |
| いささか軌道修正してみることになる。ただし、われわれは走りながらそれを行なうのであり、 |
| 人生という船はもうとっくに出港している。 |
| 3 ファンタジーを知ることによって、うかつにも、もう少しで消し去るところであった自分の自 |
| 分らしさや幼児期の思い出を回復すること。それは、いまの欲と迷いに充ちた自分を、本当 |
| にそうでありたい自分に向きなおさせるための索引となる。大人になってもまだファンタジー |
| を味わえるということは、大人にもまだまにあうファンタジーがあるという希望をわれわれに |
| 残してくれているということである。 |
| 4 ファンタジーというのはいずれも、われわれの心のなかにひそんでいる現実を模写したも |
| のである。われわれがいま生きているじっさいの世界は、魔法と奇蹟、欲望とやっかみなど、 |
| じつに色とりどりのひろがりをもった多重構造になっていることを改めて見直していくこと。古 |
| 典とか名作とか呼ばれる作品は、時には極端にまた時には美しく、きわだってそのことをわ |
| れわれに実感させ、現実の人生が何なのかを改めて考えさせてくれるインデックスなのだ。 |
| 5 ファンタジーは子どもにもわかるなじみやすさ、親しみやすさをもっ
ているが、大人がいつ |
| 読み返してみても、またはじめて読んでみてもかならず何かに気づかされ何かを教えられ |
| る息のながい作品である。かつて自分が読んで感銘を受けたことを心にとどめてたえず考 |
| え直していくこと、そこに立ちかえるごとに、新たなことを心にとどめてたえず考え直して行く |
| こと、そこに立ちかえるたびごとに、新たな なぐさめと励ましを得てさらに前進していくこと。 |
| これは人生をいつまでも生きいきしたものに保ってくれる。すぐれたファンタジーはこれらす |
| べてのことを、われわれに約束してくれる、と私は信じている。…」 |
| いかがです? |
| ファンタジイ文学がもつ人間のこころへの働き、そのすばらしさを丁寧に説明してくれていますね。 |
| ファンタジイ文学のすばらしさが、おわかりいただけたでしょうか? |
| 「ファンタジーの発想―心で読む5つの物語―」は、ファンタジイ文学の中でも
特に優れた5つの作 |
| 品を例にしてファンタジイのすばらしさを論じています。 |
| ちな みに、その5つの作品とは、「星の王子さま」「モモ」「はてしない物語」「銀河鉄道の夜」「ライ |
| オンと魔女」です)。 |
| 「ファンタジーの発想」は、ファンタジイ文学の持つ真の効用、魅力について論じたたいへん優れた |
| 本だと思います。 |
| ぜひみなさんも一度、読んで見てください。 |